信州茅野・角寒天の製造

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天出しの光景・ドローン撮影


寒天工場

西和賀では例年11月になればいつ雪が降ってもおかしくなく、慌てて秋じまいを急ピッチに進め、タラノキの取り入れなども行って、外の農作業が終了します。そしてだいたい11月の最終週から長野県諏訪地方では寒天の準備作業が始まり、それに合わせて岩手から長野県茅野市へと向かうというのがここ数年の慣例となっています。


わらしき

最初の作業は田んぼへのわら敷きから。寒天は田んぼで作ります。もちろん作付けしていない休耕地でも良いですが、とにかくこの辺りは水はけが良い。冬場に降水量の多い日本海側の気候では、コンバインの轍などに水たまりができているのが普通ですが、こちらはそんなところはないですね。排水のよい場所を選んで寒天に使用しているのかもしれませんが、とにかく田は乾いております。そこに大量の稲わらを敷いていく作業が最初です。運搬車で運び込んだ稲わらを草刈り鎌でバインダー紐をカットして、両手に2束くらいずつ先端の方を持って、どさっと落とさず均一にふわっと敷いていきます。

寒天のできていくこうした場所を「庭」と読んでおり、最初はこの庭作りからスタートします。


完成した庭の様子

こちらが完成した姿です。わらを敷き終えたら、稲をハセ掛けするのと同じ杉の間伐材の長い木の棒を配置して、まず木の杭を打ち、杭の上にその長木を載せていきます。長木はまっすぐでないし、調整(矯正)しながらの掛矢での杭打ちはかなり疲れる作業です。

端には、運搬車が寒天や資材類を通る木道をトバイタを使ってロープで編みます。重い天を積んだ運搬車が通行しますので、木道を作らないとさすがに土が荒れて収集がつかなくなります。トバイタも板を1枚1枚コツコツ編んでいく根気のいる作業です。

長木を杭に縛って、「とかし」の完成です。夜凍らせて昼溶かす台になります。なお、このとかしの向きと杭の高さは太陽光を理想的に受けられるような設置になっています。向こう側の水色の柵が見える方向が南西の方で、この道は国道20号の高架です。このとかしに立てかけられているのが「カイリョウ」と呼ばれるもので、多分、「改良型の寒天台」といった名称になるんだと思います。


草

寒天作りは草の準備から始まります。中規模の工場で500kg、大規模で1,000kgくらいのテングサ(乾燥時重量)を使うでしょうか。写真は2番草と言っていますが、千葉や伊豆から仕入れています。その他、世界中から草は買って、ブレンドしています。長野は海もなく、寒天産地でもテングサだけは買ってくるしかありません。


タイコ(ドラム)

一晩水に浸けた草を回転ドラムで洗浄します。緑色のバルブで水を注入しながらの作業です。写真はちょうど3番草という種類を洗っていますが、これは圧縮乾燥草から一気に洗浄機に入れるもので、水を含んで泡が溢れてきているところです。


水車の水槽の光景

洗った草はドラムから出しコンテナにいったん入れて、そばの水槽に移して水をためます。この水も、釜に入れ煮込むための水も、地下水をポンプで汲み上げています。良い地下水が得られるかどうかが、寒天事業を始める大前提になるようで、こちらは霧ヶ峰方面からの水脈で、とても良く、他方、八ヶ岳方面からの水脈はあまり結構でないという話を聞いた覚えがあります。2日水に浸け、時々水を全交換し、また夜間はホースで各水槽に流水が行き渡るようにタコ足ホースを設置します。凍結防止ですね。標高800mで、平均して-6度というのが最低気温です。


草がローラーに載る

そして、最後は水を切ってコンテナに草を詰めて釜へ「草上げ」します。水槽からローラーに乗せて移動し、最後はコンベアで釜に上がります。


釜

釜は深く、鉄釜の底まで2.8m、左右の直径も約2.8mのサイズです。水を貯めるのに1時間、沸かして沸騰させるまで9時間という感じです。


バーナー

重油のバーナー。毎日沸かすのに9時間、草を入れて煮込みが完了し火を止めるまで2時間ということで、11時間燃焼していて、膨大な量の重油を消費します。三相電源で、オイルヒーターで暖められた燃料が流入します。


舟の下コンクリ

釜で煮た草は煮汁ごと「舟」に移され濾過されて天になります。舟はこのコンクリート水槽の上に柱を並べてありますが、その上に担ぎ上げて載せます。


舟上部

大勢で担ぎ上げて、舟がセットされました。舟には10個のマスがあり(使うのは8マス)、木のヒダが溝状に釘打ちされています。その上に竹で編んだフィルターを被せます。少し竹をセットしたところ。


クレーン作業スタート時

最終的に濾す布を被せて準備完了です。この布のマスに、煮込みが終わって蒸らしが11時間くらい経った煮汁をクレーンのバケットですくい上げ、舟に移します。作業が始まったところです。いまは量も減ってきてやりませんが、数年前は溢れるくらいの草が溜まっていくため、こうやって防波堤のようなものを草で作って盛ってました。


バケット

クレーンは深夜の作業です。全部移し終える工程で、23:00〜1:30の作業になります。釜の中にバケットを投入し、ロープを引きバケットを開いて、煮液と草の内容物をしっかり取り、ロープを緩めてバケットを閉じ、リモコンで上まで引き上げて、こぼさないように釜から舟のマスへとリモコン操作でレール移動し、各マスの中央でまたロープを引いてバケットを開き、中身を舟に落とす、という工程です。入れる場所は4か所で各2回ずつ1ターンで8回投入。これの繰り返しで、最後にすくい取れなくなった残液は、梯子で下まで降りて、バケツ等で手作業ですくいバケットに全部移しカラにします。ただちに水を入れ始め、ある程度溜まって来たらバーナーに点火です(深夜1:30)。



まんがんでバケットを支える

なお相方役は、リモコン操作者がバケットをマスの上で開く時にスコップでグラグラしないよう支えて、周囲に撒き散らしてしまわないように補助する役目があります。バケット自体はチェーンで吊るされグラグラ不安定なものです。釜部門は2人セットの作業になります。


重しをかける

全部移し終わったら布を折って閉じ、木の蓋をして角木を乗せて木の棒をかけ、石を吊って重しをかけます。濾過を効率よくさせて煮液を出し切るためです。


舟の重し2

石を吊った状態で2時間濾過タイムです。この間われわれは夜食を食べ少し仮眠します。ちなみに、黒いホースが舟の端から2本出ていますが、これがモロブタにノリ(濾過した液)を注ぐためのホースになります。


ノリツギ

2時間待って、ポンプを使って、モロブタにノリツギします。濾過液は「ノリ」と言っており、これがモロブタに注入されて「天」になります。注入された直後は綺麗な茶色ですね。約2時間半で固まります。写真を撮るために1枚のモロブタに注ぎ口を仮置きしてますが、注ぎ口は2股に分かれていて作業は2枚ずつ注入していきます。


モロブタのノリ

ノリツギの最後の方では、沈殿した草混じりの「オリ」となり、商品化されない部分になります。この終わり近くになるとそうっとオリが混じらないようにゆっくりゆっくり注いでいき、やがてオリが混じり始めたら、それは通常の天出しには出さないので、あとはガンガンオリを注いで作業を終えます。

舟がカラになったら、布の中に残ったカスをトラックの荷台に乗せ、毎日廃棄されていきます。この「カス捨て」はホカホカしたマスの中に入って、コンベアも使ってトラック荷台に投げ入れる作業ですが、結構大変です。汚れた布はお湯で洗ったまた舟にセットします。別に汚いものじゃありません。


天切り

重しを崩して布を開封しカスを捨て、慌てて朝ごはんをかきこみ、天切りの作業に移ります。庭の人が待っているため、煽られる時間帯ですね。天切りして運搬車で庭に届けるまでが釜の仕事です。

天切りは運搬車の上で行います。こうして積み重ねながら切り進め、庭に運びます。膝をついての作業になり、糸ダレが濡れている時もあったり総じて膝が冷たいので、膝マットを使っています。1台今年は44枚で運びましたが、56枚だった年もあり、とても重いです。地形が悪く、特に庭への進入口などで運搬中にバランスを崩せば運転席側が持ち上がって宙吊りになり、個人の力では体制も戻すことはできません。下り道は絶対にバックで進みます。


包丁

モロブタに注いでから3時間くらい経って固まった天を、この「天切り包丁」で21本に切断し、各寒天の元が出来上がります。包丁は不用意に置くと刃が曲がってしまい、取扱い注意です。



ツララ

舟の中のコンクリート槽も毎日掃除します。舟を支える横柱を伝って液のツララが形成されます。食べると美味しいです。この柱の掃除は釜煮込みが終了した日に行います。お湯で洗わないと落ちません。


天出し

モロブタから手で取り出して、カイリョウに載せる「天出し」作業に引き継がれます。

その後は庭仕事の積み広げなどの作業を経て、寒天が出来上がります。だいたい2週間くらいで取り入れます。天出し作業は結構なワザがいりますし、慣れないと折れたり、作業が遅かったりというものです。中腰の姿勢は腰にきますし、準備が終わり、天出しが始まって、その辛さで仕事を辞めていく人も結構いました。


出したばかりの天

あと、積み広げと言って天気が良い日は全広げし、悪天予報が出ると積んでいく作業が日課になります。天出ししたばかりのカイリョウは重いです。モロブタ2枚分の天が載っていますし、これを2人1組で積み広げするのも大変腰にきます。それでリタイヤする人も当然出てきます。

基本は農家仕事なんだと思います。延々としゃがんでのコツコツ作業や、ある程度の重いものを動かしたりする経験がない全くの事務系しかしたことがない人には厳しいかもしれないですね。いろんな人が募集に応募して来ます。農家を始めとした季節の仕事の人が多いですが、たまたま職がいまないという人もあります。後者は大概は翌年来ることはまずありません。


雪払い

カイリョウを広げている時に突然雪が降ることもあります。そういう時は一斉に竹ぼうきで雪払いです。最近はブロワーで飛ばすようになったので、この光景はもうありません。


2026年2月の最後の天出しの光景です。私は釜の煮込みなので庭作業は初めの準備だけで、煮込みが終わったら岩手に戻りますが、庭の人たちはほぼ現地の通いの人で、だいたい最終日までいます。

寒天を作れる条件は、1)夜に理想の最低気温になり、2)昼にしっかり日差しがあり気温も上がり、3)風(季節風など)が比較的穏やかな地方であること、です。とはいえ風が強い日もあり寒天がカイリョウから飛んで行ってしまうので、防風ネットも必要なわけです。また強風にさらされ続けると寒天が赤っぽくなり、綺麗な白でなくなってもしまう難点があります。


すどりが近づいてきた天

天出しはカイリョウの上にわらを糸で編んだ糸ダテ、新聞紙、寒冷紗を敷いた上に載せます。

天出しして2週間くらいで、だんだんと完成していきます。綺麗な白色になっていますね。あとは「すどり」といってこのカイリョウから天を集めてハウスに移動し少し乾燥を進ませてから梱包し、商品になります。風に強く当たると黒っぽくなるため、風が吹かないシーズンであるのが望ましいですね。軽くなったところに強風が来ると、吹き飛んでしまうしです。


3連前の天

良い色になってきましたね。こうなってくると積み広げも楽になってきます。2人1セットで上と下で持ち、天候に合わせて積んだり広げたり。上下を逆さまに回転させる作業も後半出てきます(水分が下の方に偏らないためでしょう)。


すどりした棚

あらかた乾燥したら、「すどり」してハウスに集めて仕上げ乾燥します。「す」はカイコの巣のことのようで左の「す」で集めて来て、そのまま棚に差し掛けます。ここも藁を敷いて、棚を作って、そして終わったら最後は棚をほぐして、いろんな器具を収納するスペースとなり、そして次の初冬にまた組み立てて、のくり返しです。


マルタバ締め

最後に完成した寒天を束ねて終わりです。「マルタバ」と呼ばれていました。あとは室内に運ばれて経営者の家族で商品チェックや袋詰めなどの最終出荷作業をやりますが、それは寒天製造者たちが解散した後も行われていることです。特別の木の型枠に天を積み重ねていき、最後に渾身の力を込めて紐で縛ります。できた束を木枠から外してハウス外へ出すわけですが、そうした時にもバラバラに崩壊してしまうことがあり、熟練を要す工程です。


マルタバ締め前

これは私が作ったマルタバの締め段階の状態です。上部のR(円周の形に合わせて円形に積んでいくこと)が結構大変です。これでわれわれの工程は終わります。

あとは庭に作ったとかしを撤去し、杭を抜いて、防風ネットを外して、敷き藁を今度は集めて捨てに行き、寒冷紗を収納しておしまいになります。2026年は2月23日に終了しました。私は本来は釜の担当なんですが、煮込み終了後も引き続き庭のラストの作業と片づけを一緒に行いました。

私も取っていますが、日本農業新聞による取材が2026年1月にあり、その時に同時製作されたYouTube動画が閲覧できますので、関心がある方はご覧になってください(https://www.youtube.com/watch?v=u3z_3mLqaKY)。冒頭のドローンによる撮影写真はこの農業新聞の取材担当者から送っていただきました。