田んぼの便り

 

 

稲運び平成8年に沢内村へ移住して稲作とりんどうを始めて早や10年余。いつも農作業は一度きり・ワンチャンスのタイミングをとらえ、積み重ねていくこと。育苗も田植えも稲刈りも、日々の水管理もやり直しはききません。いろいろ試行錯誤 を重ね、田んぼの改良も進めつつ、うまくなってきているはずが、なかなか上手にいかない米作り。最初の難関が苗作り、次は代掻き、でしょうか。

わが家の農業は、りんどうの市場出荷と米・野菜の直販の2本立てになっていま す。このページでは田畑のいろんな作物について紹介していますが、いまのところ、りんどうなど花については直販は行っておりません。一般的な出荷形態であ る150本梱包の箱は家庭消費用には向いていないからです。しかし、お米やにんにくなどのお届けの際にりんどうが咲いている時期でしたら、いくつか短くし て詰めることもできますが。

また冬期間に行っている切り干し大根や漬け物等も交流のきっかけにできれば楽 しさが広がることと思っています。特に冬期間婦人グループで力を入れている郷土料理の宅配セットは、当地域の総力を結集した漬け物・惣菜がぎっしり詰められている、地元力の集大成といえます。

それらはただ依託を受けてサイトに陳列しているわけではなく、冬の間に実際に 何度も講習に出かけ、その奥深い技能レベルに触れる機会があった作品たちです。しかも、季節商品を除き夏の間品切れになったりしない産品に限定しています。

時が積み重なって、技がじっくと現れ出てくる匠の技。農業も、加工・民芸品も 同じですね。自分の専業テリトリーに籠り切ることなく、バラエティ豊かな<農園>をめざして日々奮闘しております。

 

米作り4か条

毎年雪解けとともに、稲作の努力を決意し、秋には来年の手 だてを思い巡らす

何度やっても「完成」などとは言えない稲作は本当に奥深い もの‥

私たちの米作りはそうした手探りの中、次の4つのことを モットーとして取り組んでいます。

何度やっても「完成」などとは言えない稲作は本当に奥深い もの‥

私たちの米作りはそうした手探りの中、次の4つのことを モットーとして取り組んでいます。

1.堆肥とボカシを几帳面に施用すること。

ボカシ米作りのポイントは数々あれど、味の決めては堆肥による土作り(微生物の活性化)と米ぬかの施用と考えています。堆肥は地元堆肥センターの牛 糞堆肥、ボカシは地元産米ぬか1点のみ使用しています。堆肥は大量投与がよいのではなく、毎年コツコツと1tずつ入れる ことでしょうか。追肥は量を穫るためといわれ、味は落とすとされるため入れていません。

2.苗作りは細やかに神経を使うべし。

田植え「苗半作」といわれるように、農業において、良い苗作りはその作物の一生を左 右することになります。まさに子育てと同じ。いちばん難しいのが種まき後の出芽です。このとき、温度が低かったり、土が乾いたりすると、芽が出ず不揃いな 苗箱となり、失敗作。気温の低い北国では加温機にかけ2晩で一気に目出しさせることで、揃いをよくさせますが、加温機械に入れることはカビや菌を防ぐため 農薬を必要とすることになります。わが家ではシルバーポリ被覆でじっくりと自然出芽。1週間以上かけて緑色のまま出てきた苗は、後半勢いよく生育し、田植 え頃には立派な苗になっています。発芽が揃うまでの風によるポリのめくれは厳禁です(土の乾燥は命取り)。

3.草取りにかいた汗の量だけ、穫れる!

除草機がけ夏の暑い時期、除草機を押して歩くのは酷な作業だ。田の中をぬかりながら重い 除草機械を押し、向こうに着いたら今度はターン。特にターンが大変でズボンは泥だらけ、体はへとへと。有機農業の辛さというものをまさに肌で体感するのは この除草作業に他ならない。草は、何といっても生えてこないようにするのが肝心。除草剤の代わりに米ぬかを散布して草が生えにくい土壌にする手法も導入し てはいますが、効果はわからず、むしろ食味向上を狙っています。雑草生育初期の6月下旬のきめ細かい草取りが肝心。

4.収穫してからも気を抜くなかれ。

稲上げコンバインで一気にすますのでなく、バインダーで刈り、天日乾燥して脱穀する ことで米本来の味わいを引き出します。ただ、収穫時期やハセ掛け後にも秋の長雨が続き、農家をいらだたせるのが東北の気象。天日で乾かず、結局脱穀後に乾 燥機にかけたこともありますが、それも自然の風合いに近いタイプの機械を頼んで仕上げ乾燥してもらっています。天日干しは乾燥ムラがどうしても出るので、 仕上げにさっと乾燥機を軽くかけてもらうのがベストのようです。保存はもちろん玄米で行っており、注文に応じてその都度精米しております。玄米でのご注文 が圧倒的に多いですが、、。

沢内三千石、お米の出どこ…この奥羽の山里の春 は米作りから始まり、脱穀・精米して秋を閉じる、稲作文化の農村です。積算気温の低いこの地域では、「コシヒカリ」や「ヒトメボレ」はできません。しか し、だからこそ、そうした銘柄米にはない素朴な味わいのお米、県外には一般には出回っていない品種、耐いもち性も高い「いわてっこ」を選定し、わが家では栽培しています。


米 作 り の 過 程

ボカシ作り▼春一番の作業はボカシ作りから。冬期間地元で出た米ヌカをこまめに収集したものを作業場に並べ、水をかけながら丹念に切り返す。連休前に完成。すぐ田んぼ へ。堆肥も入れて耕うん。当初はいろんな資材も使っていましたが、近年はもっぱら米ヌカのみでボカシにしています。牛糞堆肥も当園のわらを畜産農家が引き 取って堆肥にしたものを再び届けてくれて田に返す形にしています。

昔の人たちは一日に4~5合の米を食べた。1か 月で15キロ。1年で180キロ、つまり米3俵である。現代人の3倍の米を食べたのだ。ちなみに自分は120キロ、2俵食べる。パンや麺類をあまり食べないから、3合をちょっと切るくらいを一日で食べるとそうなるようだ。日本人が少なくとも年間100キロ食べるようになれば、米作りの意味も意欲も大きく前進すると思うのだが…。

手植え▼田植えは機械(いまではめずらしい2条植え田植機)でやりますが、四隅(すまっこ)と欠株部分は手作業です。

夏の暑い時期、除草機を押して歩くのは酷な作業 だ。田の中をぬかりながら重い除草機械を押し、向こうに着いたら今度はターン。特にターンが大変でズボンは泥だらけ、体はへとへと。有機農業の辛さという ものをまさに肌で体感するのはこの除草作業に他ならない。

米ぬか投げ▼米ヌカ除草も慣例化しました。田植え後の活着時期にまく(ことになっている)のだが、田の面にいかに均等に散布するかが難題。しかし、いくら本を読み勉強しても実際に体験してみ ないとモノにならないのが農業です。田植え後の幼苗にとって散布された米ヌカの付着は酷な布団ともなり生育の停滞にもなり得ますので、何回か除草に歩いた6月末に米ヌカ散 布する方式が定着しています。

温暖化といわれる現象の副作用でしょうか。低気圧の発生が増えてなのか降水(雪)量は増加し、春までの低温と夏場の高温に極端に二極化した傾向の昨今です。しかし、天候にかかわらず、収量はさほどではなくとも安定した量になるのが有機栽培米の特 徴ともえます。多少田植えが遅れても、遅く代かきし、またその分苗 を大きくして草に負けないようにする手法が無農薬栽培の基本。とはいえ、7月後半にはもう量は大体決まってしまうので、田植え後初期からの水と雑踏の管理は必須です。まずは 播種を早めに、田植えは適期とし、大きな苗を作って深水管理下に置くことが大切ですね。

稲刈り▼稲刈り・稲上げは農繁期の最大のイベン ト。9月最終週にお手伝いしていただける岩手近郊の方、大募集!です(お礼にお米を差し上げています)。

沢内で米作りは当たり前の仕事。りんどうなど花き栽培が盛んな現在でもやはり 原点は米。自分たちの命の源である稲作への思いは常に熱く持ってい続けたいと思う。

 


手植え中苗を傷つけない手植えは理想の移植 方式。70年のキャリアのおばあさんは私の3倍のスピードで植えていく。右手にうまく3本の苗を送り出していく左手の操作が大切だという。機械の田植えと なった現在でも、機械のターンする四隅(すまっこ)は手で植えなければならない。そしてそこは稲刈りのときには機械が入る前に手刈りする。手植え・手刈り は永久になくなることはない…。

写真は平成9年に手植えをしたときの様子。全部手植えだけで田植 えしたのは後にも先にもこのときだけだ。古い「跡付け機」を押して歩き、植える場所を付けてから、あとはひたすら植えるのみ。もう一度やる気力はちょっ と、、。


わ が 家 の 米 作 り

(1)牛糞堆肥を毎年反当1トン投入しま す。堆肥は大量施用が良いのではなく、毎年適正量が永続的に入れられることが大事です。肥料は春、雪があるうちからボカシ肥料を作り、元肥としてのみ施用 します。味を落とすといわれる追肥はしません。

(2)種まき後の出芽の揃いをよくするため 機械で出芽させる方式が一般的ですが、これは高温多湿環境で殺菌剤を必要とすることとなりますので、わが家ではしていません(機械も持っていない)。種まき後すぐにハウスに置き、自然にもみの力で出芽さています。雪国の4月はまだ寒い。里で消雪した後ももちろん山には残雪がまだあり、そこを渡ってくる風は やはり冷たい。この環境の中で揃いよく自然出芽させるのは、本当に勘どころ。「苗半作」とよく言われますが、良い苗を作る基本はまず土からの発芽。これをいかにバラツキなく行うかが、最も重要なポイントといえます。

(3)草退治は動力除草機や手取り除草とし、除草剤を使用しない。とにかく頑張って取っていますが、やはり残ってしまうもので、、。当園では「米ヌカ除草」 を続けていて、田植え後苗が活着した頃に米ヌカを田に投入し、米ヌカの膜で草を生えにくくするというもの。元肥も米ヌカオンリーですので、抑草施用分と合わせ100kg/10aの量となっています。

(4)農薬不使用の栽培です。いもち、かび等に対する殺菌剤(予防薬)、および殺虫剤、除草剤も使用しません。

(5)バインダーで刈り、ハセ掛けし天日で 乾燥させます。ただ、10月後半という雪シーズン前の時期は雨が続き、十分な乾燥ができない場合があり、不十分な乾燥で保存すると当然カビ等のおそれ があるので、2013年から一部ハウス内に稲架施設を設け、主に翌年夏の高温多湿期の出荷用に保存します。春までは籾のまま貯蔵し、注文の都度籾摺り精米しています。4月にはすべて籾摺りし、玄米の状態にて農協の雪室に貯蔵し、注文に応じ出庫し出荷しています。

ハサ柱作りには米 作りの魂を込めて

稲の天日自然乾燥を続けている農家にとって、稲の「ハセ」を確保 するのは必須だが、そのスタイルは地域によってさまざまである。岩手の内陸平場でよく見られるのが田に一本立てて、それに下から円形に掛け上げていくタイ プ。そして北上山系の小さい棚田などでよく目にするのが田の中に柱を組み横に棒(沢内では「ホケ」と言う)を通して横に稲を掛けていくタイプだ。どちらも 稲の乾燥が終わるとほぐしてしまっておく。

わが沢内ではどうかというと、田の畦と農道の接点のところに太い柱を2mおきに埋め、一生抜かない。稲刈りの時期が来ると、あらかじめ暇を見て横の棒(ホケ)を3段くらいに組み、支度しておく。稲刈りが始まれば即掛けていくことができる。頑丈な柱なので風に強い。

最近は簡素な金属の三脚を売っていて、これに横棒を掛けてハセにするケースが沢内でも増えているが、昔はみんな柱を埋めたのだ。おそらくこれは強烈な風に 対する対策、および忙しい稲刈り時に、稲刈りが終わってからハサ場をこさえるなどの悠長なことは言っていられない、の2点によると思われる。現にわが家も 稲刈り時は極晩のりんどうがゴッソリ咲いていて、唯一週のうちりんどうを収穫しない木曜日にあらかじめ横棒を組んでおき、稲刈り本番時には、りんどうの収 穫と並行して稲刈りするパターンになっていて、まさに一刻も無駄にできない正念場と言える。おまけにここは第一級の強風地帯。安易な仕組みでは風に太刀打 ちできないのである。

…というわけで、2007年12月初め、最後の農作業であるハサ柱20本を立てる作業に着手した。

 

ハサ柱

ハサ柱は栗の木を使う。4mのもので、まず皮を剥くのが大変な作業だが、家内の父が全部まる一日かけて剥いてくれていた。もちろん手で。今回の作業はまず 1mの穴を掘ることから始まる。半分も掘ればスコップは使えなくなるので、後半は手掘り(文字通り手、または小さい熊手)だ。最初の8本は山に近い方で石 もなく15分くらいで掘れたのだが、残り12本は残念ながら瓦礫帯との格闘で、カナテコを使い石を叩いてから手で拾い上げる作業のくり返し。1m掘るのに 35~40分。

ついにあと2本というところで、本格的に雪が降ってきた。岩手の県北部では数十センチなどとラジオが報じている。暗くなり作業はやめざるを得ず、大雪にな らねばと願いつつ就寝。そして翌日、何と沢内は積雪3cm。県内他地域では大雪で全国ニュースにもなっている。ラッキーな農仕舞い日。50cmも積もって しまえば穴掘り作業どころではなく、あと2本というところで来春まで持ち越しというのでは正月も気持ちよく過ごせないところだった。約2時間で無事残り2 本埋め終わり、午後から本格的な雪降りとなった。そして翌朝はごっそりと積雪。間一髪だった。

柱を埋めるときの注意点は、しっかり土を圧縮しながら空間を作らないようにすること。最後の10cmくらいは埋めないでおき、来春の好天の日に防腐剤クレ オソートを塗ってやる(土に埋まる部分と地上部分の10数cmだけ塗る)。

最後の8枚目の写真でわかるように、古い柱(右に写っているもの)はやはり頼りなくなっている。これからは 20本一気に埋めることはないだろうが、毎年5本くらいずつ古いのを抜いて交換していかなくてはならないだろう。一応やり方は心得たので、気長に補修しつ つ、稲作を末永く続けていきたいものです。