屋根を葺く

 

 

私は移住当初、茅葺きの小屋を借りて住んでいました。その小屋に水道の配管と電気の配線、およびトイレを設置して生活を始めました。そして2年目の春、雨漏りする屋根を改修する計画を大家さんが立て、職人さんともども私も手伝うことになりました。いまは農村育ちの人でも60歳以下ではわからない<刺し茅>の現場に立ち会い、その工程をうかがい知ることができたのです。

昔は春一番の仕事は、集落持ち回りで、今年刺し茅する家に集まって屋根を修復する光景が見られましたが、現在は雪国の屋根はトタンになったため、絶滅した風習となっています。97年の4月に行われた刺し茅の様子をかい摘んで紹介します。

 

茅1

前の年の秋に刈っておいた茅(ススキ)をこうして束ねて立てておきます。右に見える小屋の屋根になる。全長から2ないし3ずつとれ、上の穂の部分は捨てる。

 

茅2

<押し切り>で茅を切ることからスタート。下で準備し上に渡す<地走り>は茅を50cmか30cmに切り、長いの、短いの、と上から言われるものを手渡していく係。職人は3人、地走りは良く世話になっているおばあさんと私。

 

茅3

<ホケ>と呼んでいる杉の間伐材の芯を横に組み紐で結わえて足場とする。棒の部分を踏んで作業します。

 

茅5

置かれた茅の束を刺していく様子です。

 

茅4

茅の束を手で握れるくらいずつ屋根に差し込んでいき、ヘラのようなもので叩いてならしていく。

全体を刺し終わると最後にはさみを入れてきれいにカットして仕上げます。散髪と同じ。

 

茅6

茅はただ刺しているわけではなく、所々紐で結わえてある。この工程は、写真のようなミシン針の巨大なものを使います。一人(私)天井裏に上がり、懐中電灯で照らして待機。まず、外にいる職人が紐を針の穴に通し、中へと針を貫き、中では穴から紐をはずす。次いで外から針を抜き、屋根裏に縦に走っている梁を挟んでもう一度刺す。中では今度は穴に紐を通す。そして針を外から抜く。これで屋根裏の梁に紐がまたがって茅が縫われることになります。

真っ暗な天井裏で懐中電灯のかすかな明かりを頼りに、いきなり2メートルの針が目の前にぐさっと現れる。だんだん上に上がると手が届かなくなっていき、中で受ける人も結構大変な作業。

 

茅7茅葺き屋根の特徴である<グシ>(棟)の部分。ここは刺すのでなく横にヨシ(茅でなく)を並べその上に写真のごとく杉の皮を折り曲げ、そして枕の木を交差して完成します。

杉皮もいまではなかなか手に入らず、近所の古い小屋にあったものを頂きました。

 

茅8

以上で出来上がりです。農作業が始まる前の春先の風情ある10日間でした。

完成した夜に寝床につくと、何だか頭上に重いものがのしかかってくるような感覚がしたのを良く覚えています…。