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いつもより残念だった稲刈り

稲刈りやまなし田2020

雨が多い稲刈り期になっています。降ればりんどう出荷をやり、晴れれば稲刈りをする。複合経営ですので、雨で何もすることがないということはあり得ず、だからこそオーバーワーク気味ではありますが、自分なりの暮らしの手応えを感じつつ、限られた時間枠の中で悔いなく過ごしていきたいと願う毎日です。現在は10月になり、稲刈りと小麦播種は終わりましたので、あとはにんにく植え付けが少し残り、極晩生のりんどう2品種を出荷しているところです。

今年の稲ですが、背丈が取れず、作柄としては良い感じではありません。全国的には出来が良いような報道だし、他地域では目で見ても確かに良い感じにも見え、ここはやはり気温が低い地帯で、7月の悪天の影響も他より色濃く出たかもしれませんね。8月はこちらも天気は良くて、盛り返してくれるかと期待したのですが。。

 

稲のハウス乾燥

5アール分の稲は今年もハウスの中に掛けて雨に当たらないようにしています。今年はひとめぼれは生育が悪く、いわてっこの方がメインの出荷になりそうです。ここ10年くらいの記憶の中では、今年の出来が最も良くなくて、稲作には残念なシーズンになったと感じます。稲作は本当に地域差があり、それはつくづく実感されますね。3年に1度は冷害が、と昔から言われる地域なのですが、品種改良や温暖化(?実感はできませんが)等でちょっと忘れていた言葉でしたね。いずれ出穂期の低温はありませんでしたので、冷害ではありませんね。

 

小麦播種

稲刈りに先立って、やはり蒔く方が先ということで、小麦の播種を今年は規模を若干拡大して行いました。根雪期間が早く来て雪解けも遅いので、にんにくにしても小麦にしても早く植え付けることが大事です。通常「ごんべえ」という播種機を使って蒔くのが主流ですが、まだ所持しておらず、トラクターで耕耘した時に尾輪で付けられる溝を蒔き溝として、そこに手で播種して長靴で覆土して歩くという方式になります。

 

小麦の蒔き溝

その尾輪による蒔き溝はこんな感じです。播種した後で足跡が付いています。小麦の列の間隔が50cm程度でトラクターの耕耘幅の約1/3ですから、この間隔で尾輪の溝を付けるために、一度耕した跡も重ねながら耕耘することで、土をこなれさせるということは利点でしょう。ぬかるんでボコボコの土では良く発芽できません。通常に耕していけばロータリーの幅約150cm間隔で尾輪痕が付き、離れすぎになりますから、重ねるとその3倍の時間がかかることになり、非合理的ですね。ただ、種を蒔き終わって余ってしまった種をもう一度均等に蒔き切ってから覆土ができるという点もメリットですね。ごんべえ播種機だとその都度覆土までしてしまうので、余ってしまった種子はいったいどうすれば? あるいはもし足りなくなった場合は? とか考えてしまいます。

 

ライ麦種子

こちらはライ麦になります。数年前に一度作付けし3作くらいやりましたが、あまり注文が来なくて、需要の多い南部小麦等の作付けに畑を使って、ライ麦は休止していました。が、昨今やはり需要もあるということで、もともと私もやりたいわけですし、種子を新規入手して蒔いてしまいました。

ライ麦栽培というのは日本では確立された部門ではなくて、種子について調べても、大体が緑肥栽培用で、実を穫るのではなくてすき込んで地力増進する目的の品目というイメージです。私の場合パンにするためのライ麦栽培が目的ですし、ライ麦パンというのは特にドイツで盛んと聞きます。どうせならとドイツ製のライ麦玄麦を入手して播種しました。通販で購入できまして、写真がその玄麦です。

 

ライ麦の出芽

輸入ですから時差も生じます。今年の夏の2020年産は10月以降に届くとのことで、こちら積雪地のため早く蒔きたいと思って、昨年産の玄麦を買いました。その分発芽率は確実に落ちますが、まあどうにかこうにかそれなりの発芽を確認できて、あとはこの異国の地日本の雪国で無事冬が越せるか、が気になる点です。食用という麦で種用というわけでもなかったことも、無事芽が出るか不安材料ではありました。

ライ麦は以前の時も大丈夫だったので、多分育ってくれるのではと思いますが、昨年秋に試したスペルト小麦は全滅だったので。。去年は1mくらいしか積雪はなかったのですがね。積雪量というよりは積雪期間が重要ですから、こちらは120日以上になりますので、原種に近い野性味の強さを持った麦であるとはいえ、ヨーロッパ産のものは多湿多雪の日本海側の気候には向いていないのではないかと心配されるところです。

 

最後の蒼い風

さて、こちらですが当地西和賀町のりんどうオリジナル品種の「蒼い風」。私が移住し就農した1996年頃に普及センターの花き担当の職員を中心に開発されていた品種です。その後種苗登録もされ、秋の彼岸出荷のメイン品種として20年栽培されて来ました。当時西和賀地区はまだ合併前で、沢内村と湯田町だったわけですが、農協としては「西和賀農協」と既に一体でした(現在は広域合併して花巻農協になりました)。この西和賀地域だけで栽培されるりんどうです。

岩手は現在はりんどう栽培の日本一となっていますが、そもそもは長野県が先発でして、その長野の高名な専門家が岩手へ赴任して試験場でりんどう品種開発に携わるようになって、岩手県としての有望りんどう品種が次々と作られ栽培されて、結果日本一になった次第です。そして岩手では安代町(現・八幡平市)が1番、西和賀が2番という感じでした。現在は西和賀は高齢化による作付け減少が進んで他地域に2位の座を譲っていると思いますが、それでも20年以上2位をキープし続けることができたのは、他の岩手県内の生産者が岩手県開発品種で出荷していたのに比べ、こちらの地域では「地域オリジナル品種」を持っていて市場に出し続けることができたことによると思います。もちろん全国首位の「安代りんどう」も専門の開発職員によってオリジナル品種を多数持っていることは言うまでもありません。岩手県の試験場の役割も大きかったですが、地元で品種を持つことができる点は重要なポイントでした。

西和賀は、この「蒼い風」を先駆けに新品種の開発を進め、以後、お盆には「さわ風」、彼岸には「錦秋の風」「藍の風」、極晩生の「雪ほたる」(白)、「風雅」といった品種を中心に、時期をずらしながら生産を維持し、まずは3か月のりんどう出荷期を途切れなく地元独自の品種で栽培することができています。

この「蒼い風」は20年経って、その役割を終えたなという気がしています。葉に斑らの生理的な枯れ症状が入ってくるようになったことや、チラチラして収穫に手間がかかり、時間がかかった割には出荷の箱の数が多くないこと、短命で3回(3年)も収穫すると、翌年以降品質が低下してくること、といった感触を私は持っていて、お彼岸の品種は「錦秋の風」、そして「藍の風」の2品種で構成することにし、蒼い風は今年で収穫を終えて廃園とし、再び作付けすることはないと思っています。写真は最後の収穫日の姿です。私はここ西和賀地域に移住した最初の年から、農業改良普及センターで冬期に土壌の分析のアルバイトを長くやっていて、この蒼い風開発者とも同じ職場で2冬8か月でしたか職場を共にしました。新品種の開発というのは時間がかかる作業で、根気のいる職人的な手仕事です。りんどうが好きでそういう作業が向いているとも自覚された方でしたし、私も愛着を持って栽培していましたが、ついにお別れをする時が来たようです(その担当した職員さんはもちろん県職員として「蒼い風」完成後、他の地域に赴任され、当地からは離れておられます)。

「品種」が年をとるというのはよくあることで、F1なので掛け合わせをする親株がありますが、雄雌両方ともに老化していきますし、その親株自体は培養等で同一の命を継いでいくわけですが(種だともちろん性質がばらけるので)、20年も経てば最初の頃の勢いが衰えてきて、やはり永遠のものではなくなるのです。県品種で「アルビレオ」という好きな品種がありましたが、これも親株の老化で供給が終了しました。

りんどう出荷の1つの期間を複数の2品種で構成することは、その分出荷時期がなだらかになることで、市場の需要期にそれとなく合わせていけることになります。1品種だと出荷ピークが狭い期間になり、ここで安い時期にぶつかったりすると、残念なことになりますから。。作業1人で10アールのお彼岸用出荷をするなら、1品種で10アールにして出荷ピーク時に過重労働になるよりは、5アールずつ2品種にした方が、ピークがなだらかになる分、日々の労働時間も安定する、ということも大きい理由です。

今年はりんどうは良い市場価格を維持しています。市場の反応としてりんどうに「品薄感があって」という言い方がされたりしていますが、そういう話を聞くと、値段が良いなら作付けしよう、ということになり、今度は過剰になって価格を下げる。そんなくり返しになっているのではないでしょうか。菊とかりんどうとかは施設栽培(ハウス)の花栽培に比べ、面積が広い露地栽培ですから、少人数でやるには辛い品目です。しかもりんどうは植え付けた年は収穫にはならず、翌2年目も遠慮しながら採らなければその後の寿命を短くしてしまう。その後良いところ3年も取ればその後は老化して質も量も下がり、廃園して水稲に戻し、3年以上水田にしてからまたりんどう作付けをする。こういう感じですので一般には取り組みにくい。田んぼをやっていないと出来ませんしね。出荷ピーク時には夜なべ夜なべの日々が続きますし、私らから見ると、ハウスで高単価の花を栽培する方が始めやすいし「楽」に見えますね。

りんどうをやめて山菜栽培が微妙に増えて来ている当地ですが、なかなか山菜ではお小遣いを超えて家計を支える屋台骨品目になりません。かつて地元の優れた大規模の農家の方が語ったことがありました。「沢内は寒くて春が遅く秋も短いので、なかなか実をならせるところまでは時間が足りない。その前段階の花ならちょうど良い」。これは葉や芽である山菜にも当てはまることですが、いずれ注文を待って個人に直接出荷する方式の当園のお米などは簡単に面積を増やせないのに比べ、市場出荷する品目ならば頑張って出した箱の数だけ、所得になります。頑張った夜なべはその分成果になるので、頑張れるし、過剰な働きもしなければなかなか家計を支えることができないですね。

新型コロナでステイホームと言われますが、われわれ農家はその生活は全く変わらずステイホームの中で去年と同じように朝から夜まで働き続けています。日々の暮らし方は変わらなくとも経営上はいろいろ影響を受けるでしょうし、花でもイベント関連需要の百合などは打撃を受けているはずです。幸いなことに、りんどうは家庭利用が多い品目かもしれません。まだ2品種残っていますし、あと3週間後には出荷は終わっています。まずは目の前のりんどうと稲刈り稲扱きを終わらせて、ホッと一息つきたいものです。